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ちょいとよさ気な本ばかり。


by makoto19750121
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三国志 北方謙三 [七の巻 諸王の星]

「会議のときではありませんぞ、殿」
 周瑜の声は、静かで澄んでいて、しかし心を揺さぶるような響きがあった。
「私は、剣を執って、ここへ参りました。孫堅将軍は流れ矢に当たり、孫策殿は刺客の手にかかって果てられました。あの二人の志を、そして揚州に独立で立ったというわれらの誇りを賭けて、闘おうではありませんか」
 誇り。志。まさしく、そうだ。口にしたくても、できなかったもの。自分の心の底で、しっかりと自分を支えているもの。孫権は、雄叫びをあげたい思いに襲われた。
「誇りを捨てようと言う者は、まさかこの会議にはいまいな」
ゆっくりと、周瑜が一座を見回した。顔を伏せなかったのは、張和だけである。
「孫堅将軍の、この赤いサク。そして孫策殿が佩いていた、この剣。私には」
「待て、周瑜」
孫権は立ち上がった。
「その先は、私が言おう」
孫権は、剣を抜き払った。
「会議の決定を伝える。われらは、これより曹操と開戦する。それが唯一の私の道だ。降伏は、死ぬことである。命があってもなお、男は死するという時がある。誇りを捨てた時だ。」
孫権は、剣を振りあげ、渾身の力で振り降ろした。文机が、きれいに二つになった。
「私の決定を伝えた以上、これから先、降伏を唱える者は、この文机と同じになると思え。私は、わが手で、この乱世を平定する」
声があがり、やがてどよめきになった。
「ふるえる者は、去れ。立ち尽くすものは死ね。これより、戦だ。男が、誇りを賭ける時ぞ」
三人、四人と立ち上がった。
孫権は、剣を頭上に高々とかかげた。
by makoto19750121 | 2008-05-25 09:04 | 小説